01


side 夏野



三年前の春、二人揃って家を出てしまった俺達は両親のたまには顔を見せに帰って来なさい。と言う一言で、休みを合わせて一緒に実家に帰る事にした。

千尋と二人、久し振りに地元の道を歩く。

「ねぇ、後で学校見に行こうよ!」

「学校?中学か、高校か?」

流石に地元じゃ手を繋いで歩く事は出来ないので、手持ち無沙汰にポケットに手を突っ込む。

「高校の方」

「別に構わねぇけど何しに行くんだ?」

「特に何かするわけじゃないけど、夏野との思い出が詰まった所だから見に行きたいなって思ってv」

その頃から変わらない、嬉しそうな笑顔を浮かべて話す千尋に俺も釣られて口元が緩んだ。

俺との思い出の場所か。

「どうせ通りだし、先に見に行くか?」

「え!?いいの?」

ころころと変わる表情が俺を期待に満ちた目で見上げてくる。

俺は然り気無く千尋の頬に触れて、頷いた。

「いいぜ。俺との思い出が詰まってるんだろ?」

「っ、うん///」

恥ずかしそうに、けれどしっかりと首を縦に振った千尋は早く行こ、と歩き出した。







「はぁ〜、変わらないなぁ。あ、部活やってる!」

グラウンドに面したフェンスの側を歩き、高校の正門まで来た。

「お前、中学の時よくHRサボって俺を迎えに来たよな」

教室の窓から見えてた、と笑えば千尋はだってと頬を膨らます。

「少しでも夏野と居たかったんだもん」

「そうだな。俺も今なら良く分かるよ」

好きな奴と一分でも一秒でもいいから一緒に居たいって気持ち。

「〜っ、ズルい夏野!///今言うなんて!」

「はいはい」

顔を赤くして睨み付けたって可愛いだけだ。これが外じゃなければ…。

なんて、邪な考えに流されそうになっていれば、いきなり背後から声をかけられた。

「藤宮?…お前藤宮か!」

藤宮と名字を呼ばれて俺と千尋は振り向いた。

と、そこには。

「…あ。…大地?」

「夏野の知り合い?」

高校の時知り合った友人がいた。

「何、お前こっちに帰って来たのかよ?」

「いや、ちょうど今日休みでさ。実家に顔出しに来ただけ。そう言うお前はここで何してんだ?」

そう聞けば、大地は聞いて驚けと胸を張って言った。

「俺、今この学校で教師やってんだよ」

「教師!?お前が?」

高校時代、一緒に授業をサボって遊んだりと決して真面目じゃなかったお前が。

「おぅ。鳴海の奴が俺には向いてるって言ってくれんし、悪くはねぇぜ」

「……鳴海?何でそこで鳴海が出てくるんだよ」

久々に会った友人から、これまた久し振りに聞いた名に俺はまさかと思った。

「ん〜、まぁ。それは後で言うよ。…それよりそっちの奴は?」

大地はいきなり歯切れ悪く言葉を濁すと千尋に視線を向けた。

「あぁ、こいつは千尋。俺の…オトウトだ」

少しの間放って置かれたせいか、それとも紹介の仕方が気に入らないのか機嫌を損ねていた。

「始めまして、千尋です」

「へぇ、弟なんかいたんだ。俺は大地、よろしくな」

「オトウトって言っても血は繋がってねぇからな。両親が再婚してな…」

それだけ言えば大地はそうかと頷いて深くは突っ込んで来なかった。

「それより大地さんはこんな所にいてもいいの?センセイなんでしょ?」

「千尋」

さっさと追い払おうとする千尋を咎める。だが、大地の方はまったく気付いていなかった。

「もう俺の仕事は終わったし大丈夫だ。ここで鳴海と待ち合わせしてるんだ」

「鳴海、さん?」

新たな人物の名前に千尋が首を傾げる。

「そっ。藤宮、お前の兄貴と俺と鳴海と高校の時は良くつるんでたもんだぜ」

「ふぅん」

大地と話す千尋の機嫌がだんだん悪くなっていくのが分かる。

「じゃぁ、そろそろ俺達は行くな」

千尋の腕を掴み、変なことになる前に俺はこの場から離れようとした。

しかし、

「あれ?もしかして藤宮じゃん!」

それより先に鳴海が来てしまった。


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